CIAMとは?
多様化する顧客チャネルを統合し、ユーザーエクスペリエンスを向上させる方法を解説

現代のビジネス環境において、顧客はオンラインでのスムーズかつ安全な取引を期待しています。一方で、企業はWebサイトやモバイルアプリケーション、ソーシャルメディアなど複数のチャネルを通じて、期待されるサービスを顧客に提供することが求められます。CIAM(Customer Identity and Access Management)は、これらのチャネルを効率的に統合し、個々の顧客に最適化されたユーザーエクスペリエンスを提供するシステムであり、顧客満足度の向上と企業の成長を支える役割を果たします。本記事では、CIAMの概要と重要性、主な機能、メリット、実際の導入ステップを解説します。

1. CIAMとは

顧客チャネルの多様化により、オンラインサービスにおけるユーザーエクスペリエンスの向上が重要視されています。まず、CIAMの概要と、CIAMが必要とされる背景、EIAMとの違いについて解説します。

CIAMが必要とされる背景

デジタル化が進む現代において、企業は顧客の期待に応えるため、Webサイトやソーシャルメディア、モバイルアプリケーションなど複数のチャネルを通じて顧客との接点を増やしています。しかし、サービスごとに異なるWebサイトやアプリケーションなどを立ち上げることで顧客接点が膨大な数となり、また、IDの個別管理により企業と顧客の双方に管理の煩雑さと混乱が生じていました。
サービスを提供する企業は、顧客データを効果的に管理し、セキュリティを保ちながら顧客満足度を高めることが重要です。また、プライバシーに関する規制が厳しくなるなか、顧客データの保護と適切な管理が法的にも求められています。こうした課題への解決策として登場したのがCIAMです。

例えば、CIAMを導入していない場合、顧客は企業が提供するサービス(ECサイト、SNS、ゲームなど)ごとにアカウントを作成し、それぞれでログインする必要があります。CIAMを導入することで、企業は一つの統一された入口を提供でき、ユーザーは一度のログインで複数のサービスをスムーズに利用できるようになります。

また、マーケティングの観点からは、各システムにわたる顧客情報を横断的に分析することが可能になります。これにより、顧客が求めるエクスペリエンスの向上につなげることができます。

CIAMの概要と定義

CIAMは、組織内のユーザー(従業員、契約社員、ビジネスパートナーなど)のIDとアクセス管理を行うEIAM(Enterprise Identity and Access Management)の仕組みを顧客(Customer)向けに適用した仕組みです。オンラインサービスを提供する企業が、自社の顧客のユーザーIDとアクセス権を効率的かつセキュアに管理することを目的としています。ユーザー登録、認証、プロファイル管理、データのプライバシー保護など、顧客がオンラインサービスを利用する際に必要となるさまざまなプロセスを統合し、セキュリティを向上させることで、企業のサービスをより簡単かつ安全に利用することができます。

CIAMの重要性

CIAMは、企業が顧客との関係を強化し、長期的な信頼を築くために不可欠なシステムです。CIAMを利用することにより、顧客は自身のID管理の煩雑さから解放され、複数のサービスに対して一貫したアクセスが可能となるため、顧客満足度の向上につながります。また、セキュリティの面でもCIAMは有効です。顧客データの漏洩や不正利用を防ぐことで、顧客の信頼を確保でき、企業価値を高められます。さらに、顧客データを分析できるため、顧客の嗜好や行動をより深く理解し、マーケティング戦略やサービス改善に役立てることも可能です。このように、CIAMはデジタル時代におけるビジネスの成長と競争力の維持に重要な役割を果たしています。

EIAMとの違い

EIAM(Enterprise Identity and Access Management)は、組織内のユーザー(従業員、契約社員、ビジネスパートナーなど)のIDとアクセス管理を行うシステムです。EIAMのEは「Enterprise(企業や事業)」を指し、企業や組織内のユーザーのIDとアクセス管理を行うシステムです。

EIAMの導入により、組織のセキュリティが強化され、効率的なリソース管理が可能です。一見、CIAMと似たシステムのように思えますが、下記の違いがあります。

対象と目的の違い

CIAMは主に外部の顧客を対象とし、顧客のユーザーエクスペリエンスと満足度向上を目的としています。そのため、マーケティングやビジネス分析に関連する機能が強化されている点が特徴です。
EIAMは組織内部のセキュリティと業務効率の向上を目的としており、組織内のリソースへのアクセス管理に重点を置いているシステムです。

対象規模の違い

CIAMは大規模なユーザーベース(100万単位)とトラフィックの急増に対応する能力を持ち、予測不可能なトラフィックパターンにも対処可能です。
一方、EIAMは一般的に数千から数十万人程度までのユーザーを対象としており、トラフィックの急増への対応能力も限定的です。

機能の違い

CIAMでは、顧客自身が登録を行うことでどのデバイスからでも一貫したログインが可能で、GoogleやFacebook、X(旧Twitter)のようなソーシャルメディアのアカウントを用いた認証方法(ソーシャルログイン)を採用すれば、シームレスな認証も実現できます。
一方、EIAMは企業が従業員のユーザー登録を行うクローズドなシステムであり、企業のセキュリティポリシーにもとづいた認証を行います。

2. CIAMの主な機能

CIAMが提供する主要な機能は下記のとおりです。

ユーザー登録とID管理

CIAMでは、顧客自身で自分のアカウントを作成し、ユーザー名やパスワード、連絡先情報などの基本的なプロファイル情報の登録、更新、削除などの管理が可能です。また、サービスの登録状況を把握し、顧客に対して登録したサービスのみを提供するアクセス権の管理を行います。

シングルサインオンとフェデレーション

シングルサインオンは利用者に対して一貫したアクセスを提供し、フェデレーションは異なるドメイン間でのID情報の共有を可能にします。シングルサインオンとフェデレーションにより、顧客は企業が提供する複数の関連サービスやアプリケーションに対して、一度のログインでアクセスできます。

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多要素認証(MFA)とデータ保護

CIAMでは、セキュリティを強化するために多要素認証(Multi Factor Authentication: MFA)がよく利用されます。多要素認証とは、ID・パスワードによる知識認証だけではなく、スマートフォンや携帯電話のショートメッセージ(SMS)による所持確認、指紋認証や顔認証による生体認証など、複数の要素を必要とする認証方法です。不正ログインのリスクを低減するために、必要に応じて認証方式を組み合わせます。また、一部のCIAMでは、高度なデータ保護を実現するため、顧客データの暗号化などの機能を提供しています。

アプリケーション/サービス連携

CIAMはAPIを通じ、さまざまなアプリケーションやサービスとの連携が可能です。API連携により顧客のアクセス情報を異なるシステム間で共有することでアクセス管理を効率的かつ安全に行えるだけでなく、一貫したユーザーエクスペリエンスを提供することが可能となります。

分析とレポーティング

CIAMは、顧客がアクセスしたページや購入履歴などの行動や興味関心といった嗜好に関するさまざまなデータを分析し、製品開発やマーケティング戦略などのビジネスインサイトに活用する機能を備えています。

3. CIAMのメリット

CIAMの導入には、複数のメリットがあります。

ユーザーエクスペリエンスの向上

CIAMにより、顧客がサービスに簡単かつ迅速にアクセスできるようになります。例えば、シングルサインオン/フェデレーション機能により、複数のサービスにわたるID管理の煩雑さが解消され、利便性が高まり、顧客満足度が向上します。

セキュリティ強化

多要素認証や適切なアクセス制御、データ暗号化などを通じてセキュリティ強化を実現し、不正アクセスや顧客データの漏洩リスクを軽減できます。

法規制への遵守

国内外の個人情報保護に関する法規制に準拠するためには、適切なID管理プロセスの確立が必要です。特にGDPR(EU一般データ保護規則)では、「明らかな顧客の同意」(第7条)や「データ削除要望への対応」(第17条)が求められています。CIAMは、こうした法規制に準拠するために設計されており、企業が法的要件を満たしながら顧客データを管理するのに役立ちます。

大規模への対応と高い拡張性

CIAMは、大規模なユーザー数への対応能力と高い拡張性を備えています。ビジネスの成長や市場の変化に合わせて、簡単にスケールアップやスケールダウンが可能です。将来的なビジネスの拡大に柔軟に対応できます。

マーケティングの最適化

CIAMにより収集されたデータは、顧客のニーズをより深く理解し、効果的なマーケティング戦略を策定するのに役立ちます。パーソナライズされた広告戦略やターゲットマーケティングを展開することで、マーケティングの効果を高められるでしょう。

4. CIAM導入時と運用のポイント

CIAMを実際に導入・運用するにあたり、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。ここでは、CIAM導入時と運用の考慮事項、ポイントについて解説します。

目的と要件の明確化

自社のビジネスニーズとCIAM導入によって達成したい、具体的な目的と要件を明確にすることが重要です。例えば、セキュリティ強化、コンプライアンス要件への対応、運用効率化などが挙げられます。目的を明確化することで、最適なCIAMを選択し、ユーザーエクスペリエンスを向上するための具体的な戦略を策定できます。

必要な機能を備えているか

数あるCIAMのなかから、自社のニーズにマッチし、必要な機能を備えたソリューションを選択する必要があります。明確化した要件を満たす機能を提供しているかどうかを確認しましょう。

サポート体制

CIAMを長期的に利用していくためには、迅速かつ適切なサポート体制が整っていることも重要です。サポートの時間帯(24時間365日など)や、必要なコンタクト窓口(電話、メール、チャット、オンラインのポータルサポートなど)が提供されているかを確認しましょう。

セキュリティの維持とアクセスログの監視

CIAMのセキュリティレベルを維持するためには、定期的にアップデートを行い常に最新の状態にすることはもちろん、不審なアクセスがないかアクセスログを監視することも有効です。こうした仕組みをどのように実現できるのかをチェックしておく必要があります。

継続的なユーザーエクスペリエンスの改善

顧客のニーズと期待は常に変化するため、CIAMは継続的な改善が欠かせません。ユーザーフィードバックの仕組みの導入によって顧客の意見を収集し、それをもとにユーザーインターフェースの改善、新機能の追加、プロセスの最適化などを定期的に行う必要があります。

5. CIAM導入のステップ

CIAMの導入にあたっては、考慮事項とポイントを踏まえて、効果的なプロセスで導入を進めていくことが重要です。最後に、実際にCIAMを導入する際のステップを解説します。

現状分析とニーズ分析

ビジネスのニーズと、CIAM導入の目的や要件を明確にします。どのような顧客情報がどのように管理されているか、どのようなチャネルが使用されているか、セキュリティ上の課題はないかを分析し、システムの要件を決定します。現状分析とニーズ分析は、最適なソリューションを選定するために不可欠なプロセスです。

CIAMの選定と評価

市場のさまざまなCIAMを評価し、自社のニーズに合うソリューションを選定しましょう。選定の際は、CIAMの機能、拡張性、セキュリティ、統合の容易さ、サポート体制、コストなどを多角的に評価する必要があります。また、トライアル版を利用して、実際の機能や使いやすさを確認することも重要です。必要に応じて、複数のソリューションを試して比較検討してみてください。

導入計画の策定と体制構築

スケジュールや予算の割り当て、責任者の選任、リスク管理などの詳細な導入計画を策定します。実際の導入においては、ステークホルダーと連携し、組織全体でのコミュニケーション体制を確立しましょう。導入チームには、プロジェクトマネージャーやサービス責任者、セキュリティ担当者、運用担当者などの関連するメンバーを過不足なく含めることが重要です。

CIAMの導入とテスト

導入計画にもとづき、段階的にCIAMの導入を開始します。本番環境への導入前に動作テストを実施し、システムの機能、パフォーマンス、セキュリティレベルがニーズや要件を満たしているかどうかを確認します。問題が発生した場合はステークホルダーと連携し迅速に対処し、必要に応じてCIAMの提供元と調整を行います。

運用開始と継続的な改善

本番環境でCIAMの運用を開始した後は、システムのパフォーマンスやユーザーエクスペリエンスについて、顧客や運用担当者からのフィードバックを定期的に収集し、改善策を検討しましょう。長期的な視点でCIAMを評価し、ビジネスの成長に合わせて拡張やアップグレードを計画しましょう。

6. まとめ

近年ではデジタル化の進展に伴い、オンラインサービスにおけるユーザーエクスペリエンスの向上が求められています。CIAM活用によりソーシャルログインやシングルサインオンを実現し、顧客の利便性が向上することで、ビジネスの持続的な発展にもつながるでしょう。
自社に合った適切なCIAMの選定や、安定運用のための適切な導入、テストを行うためには、CIAMに精通した専門家の存在が不可欠です。CIAMの導入に迷ったら、お客さまの課題解決を支援する日立ソリューションズにぜひご相談ください。

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